物流・運輸業界におけるAI活用事例

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物流・運輸業界におけるAI活用事例

概要

物流・運輸業界におけるAI活用は、もはや実験段階を超え、実益を生み出す実装段階に移行しています。2024年4月に適用されたトラックドライバーの時間外労働規制(年間960時間上限)、いわゆる「2024年問題」を背景に、日本企業は省人化・標準化・最適化を実現する手段としてAIを急速に導入しています。

本記事では、ヤマト運輸、佐川急便、日本通運といった日本企業から、Amazon、UPS、FedExなどのグローバル企業まで、実際のAI導入事例と定量的な成果を紹介します。配送ルート最適化で生産性を20%向上させたヤマト運輸、荷積みロボットを2025年5月に実稼働させる佐川急便、年間450億円のコスト削減を実現したUPSなど、具体的な数値と実装詳細をお伝えします。

ヤマト運輸:Google Cloudと連携した配送ルート最適化

ヤマト運輸は、グループ経営構造改革プラン「YAMATO NEXT100」の下、データドリブン経営への転換を進めています。特に配送オペレーションの抜本的なデジタル化が注目されています。

配送ルート最適化システムの導入

ヤマト運輸は、Google CloudおよびGoogle Maps Platformの「Route Optimization API」を活用し、アクセンチュアの支援を受けて新たな配送ルート最適化システムを構築しました。

課題:
従来、効率的な配送ルートの作成はベテラン・ドライバーの経験(土地勘や駐車位置の把握)に依存しており、新人ドライバーの戦力化に時間を要していました。また、EC荷物の増加や指定時間配達の複雑化により、手動での計画作成が限界に達していました。

活用技術:

  • Route Optimization API: 荷物量、車両の積載量、指定時間帯、交通状況などを考慮し、全車両の最適な巡回ルートを数分で算出
  • AI/ML: 過去の配送実績データから、エリアごとの滞在時間や駐車位置などの特性を学習

導入時期と成果:

  • 2024年から一部拠点で導入を開始し、2026年度末までに全国展開を目指す
  • ドライバーから「担当エリアや荷物の割当を柔軟に調整できるようになった」との声が上がっており、業務負荷の平準化と安全性が向上
  • アルフレッサとの共同配送スキーム(先行事例)では、AIによる配送業務量予測と適正配車により、配送生産性が最大20%向上、走行距離短縮によりCO2排出量を最大25%削減

経営資源の最適配置

独自の需要予測モデルを活用し、繁忙期や閑散期に応じた人員・車両の最適配置を実施。AI需要予測と自動仕分けの導入等を含む構造改革により、営業利益率が3%から5.4%へ改善しています。

配送ルート最適化システムの処理フロー

図1: AIによる配送ルート最適化の流れ。荷物情報、交通状況、配送時間指定などを考慮して最適ルートを算出

佐川急便:物理AIロボットによる荷積み自動化

佐川急便は、物流センター内の業務、特に自動化が最も困難とされてきた「トラックへの荷積み」工程において、最先端のロボット技術を導入しています。

AI搭載荷積みロボット「Mech」の実用化

米国のユニコーン企業Dexterity社、住友商事と共同で、AI搭載の荷積みロボットの実証実験を実施し、2025年5月より実運用を開始します。

課題:
トラックへの荷積みは、サイズ・形状・重さが異なる荷物を、隙間なく、かつ荷崩れしないように積み込む「3Dテトリス」のような複雑な作業であり、熟練者の判断が必要不可欠でした。

活用技術:

  • Physical AI (Dexterity): 荷物の情報を事前に登録することなく、カメラとセンサーでリアルタイムに形状や状態を認識し、最適な積み付け位置を瞬時に判断
  • デュアルアームロボット: 人間のように2本の腕を使い、協調動作で荷物を扱う

実装詳細と成果:

  • 2023年12月から1年間、次世代型大規模物流センター「Xフロンティア」等で実証実験を実施
  • 2025年5月より「Xフロンティア」の中継センターにて実稼働開始
  • 将来的には日本国内で1,000台以上の導入を目指す
  • 佐川急便が定める品質、速度、積載効率の基準をクリアし、人手作業の代替が可能であることを実証

AI-OCRによる配送伝票入力の自動化

手書きの配送伝票をAI-OCRで読み取り、データ入力業務を自動化。月間約8,400時間相当の作業工数を削減し、認識精度は99.995%以上に達しています。

日本通運:D2C向けAI需要予測と倉庫DX

日本通運は、顧客(荷主)のサプライチェーン最適化を支援するサービスとしてAIを活用しています。

物流Webアプリ「DCX」におけるAI出荷予測

D2C(Direct to Consumer)事業者向けの在庫管理アプリ「DCX」に、AIによる出荷予測機能を追加しました。

課題:
EC/D2C事業者は、経験と勘に頼った発注により、過剰在庫や欠品(販売機会損失)のリスクを抱えていました。

活用技術と成果:

  • 機械学習により、過去の出荷データ、セール・キャンペーン情報、季節性などを学習し、最大3ヶ月先までの出荷数を予測
  • 2025年4月3日よりサービス提供開始
  • アイテムごとの月別出荷数量を「上限・下限・推奨」の3パターンで予測
  • 属人的な在庫管理からの脱却と、適正在庫の維持によるキャッシュフロー改善を支援

自律協働型ピッキングロボット(AMR)

物流センターにおいて、NECと共同で開発したAI分析に基づくAMR運用を導入。ピッキング作業時間を20%削減することに成功しています。作業員の動線データとロボットの制御をAIで最適化し、混雑回避や最短ルート走行を実現しています。

UPS:配送ルート最適化の世界基準「ORION」

UPSの「ORION(On-Road Integrated Optimization and Navigation)」は、物流業界におけるAI活用の最も成功した事例の一つであり、現在も進化を続けています。

ORIONシステムの概要と成果

独自のアルゴリズムにより、ドライバーに最適な配送順序とルートを指示するシステムです。現在は動的な再計算機能(Dynamic ORION)が実装されています。

活用技術:
巡回セールスマン問題(TSP)を解く高度な最適化アルゴリズム、リアルタイム交通データ解析を活用しています。

定量的成果:

  • 年間1億マイル(約1.6億km)の走行距離削減
  • 年間1,000万ガロンの燃料節約
  • 年間10万メートルトンのCO2排出削減
  • 年間3億〜4億ドル(約450億〜600億円)のコスト削減・回避効果
  • ドライバー1人あたり1日平均6〜8マイルの走行距離を削減

この圧倒的な成果は、日本企業のベンチマークとなっています。

倉庫自動化システムの効果

図2: AIとロボティクスによる倉庫自動化の3つの効果。処理速度向上、運用効率改善、コスト削減

Amazon:サプライチェーン全体のAI統合

Amazonは「Sequoia」と呼ばれる最新のロボットシステムと、エンドツーエンドのAI活用により、物流速度と効率を劇的に向上させています。

倉庫自動化システム「Sequoia」

2023年後半から2024年にかけて導入が進む最新の倉庫ロボットシステムで、モバイルロボット、ガントリーシステム、ロボットアーム、人間工学に基づいたワークステーションを統合しています。

定量的成果:

  • 在庫の識別と保管速度を最大75%高速化
  • 注文処理時間を最大25%短縮
  • これにより、即日・翌日配送の対象商品数が増加し、配送予測の精度も向上

AI需要予測と在庫配置

AIを用いて、どの地域の倉庫にどの商品を配置すべきかを予測(Regionalization戦略)。2023年のサイバーマンデー期間中、1日あたり4億点以上の商品の需要を予測し、配送距離の短縮により、コスト削減とCO2排出削減を実現しています。

FedEx:データ主導の物流革新

FedExは、荷物に搭載したセンサー(SenseAware ID)からのデータをAIがリアルタイムで分析し、天候や交通渋滞による遅延リスクを予測・介入する「FedEx Surround / Dataworks」を導入。輸送遅延を最大10%削減し、配送の信頼性を向上させています。

また、佐川急便と同様にDexterity社のAIロボットを導入し、トレーラーへの荷積み作業を自動化。最も身体的負荷の高い作業から人間を解放しています。

技術的アプローチ

物流業界で活用されている主要なAI技術は以下の3点に集約されます。

1. 数理最適化・機械学習(ML)

配送ルート計画、在庫配置の最適化に活用。UPSのORIONやヤマト運輸のRoute Optimization APIがこれに該当します。

2. コンピュータビジョン(CV)

倉庫内ロボットの物体認識、検品、安全管理に活用。AmazonのSequoia、佐川急便・FedExのDexterityロボットがこの技術を使用しています。

3. 生成AI(LLM)

社内ナレッジ検索、業務マニュアルの対話的活用、顧客対応に活用。セイノーホールディングスの「セイノーAI」がこの分野の先駆的事例です。

導入のポイント

物流業界へのAI導入を成功させるためには、以下のポイントが重要です。

1. 段階的な展開

最初は特定の拠点や業務から始め、成功を確認してから徐々に拡大していく。ヤマト運輸の事例(一部拠点→全国展開)がこのアプローチを示しています。

2. パートナーシップの活用

自社単独での開発だけでなく、Google Cloud、Dexterity、Accentureといった専門企業とのパートナーシップが成功の鍵となります。

3. データ蓄積と継続的改善

AIは導入したら終わりではなく、運用しながら育てていくもの。過去の配送実績データ、作業員の動線データなどを継続的に蓄積し、モデルを改善していくことが重要です。

4. 現場との連携

ドライバーや作業員の経験と勘をデジタル化する際には、現場の協力が不可欠です。AIが現場の負担を軽減することを明確に示し、受け入れを促進することが成功要因となります。

まとめ

物流・運輸業界におけるAI活用は、2024年問題を背景に実験段階から実装段階へと移行しています。日本企業では、ヤマト運輸が配送生産性を最大20%向上、佐川急便が2025年5月に荷積みロボットを実稼働、日本通運がピッキング作業時間を20%削減という具体的な成果を上げています。

海外企業では、UPSが年間450億〜600億円のコスト削減、Amazonが処理速度を最大75%高速化、FedExが遅延を10%削減するなど、圧倒的な数値を達成しています。

特に注目すべきは、Dexterityの「Physical AI」に代表される、物理的なモノを扱うAIロボットの実用化です。これまで自動化が難しかった不定形な荷物の取り扱いが可能になり、物流業界のパラダイムシフトが起きています。

これからAI導入を検討される物流企業の方は、まず自社の課題(配送ルート、倉庫作業、需要予測など)を明確にし、段階的な導入計画を立てることをお勧めします。本記事で紹介した事例のように、適切な技術選定とパートナーシップにより、短期間で measurable な成果を得ることが可能です。

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